迷ったら読んでほしい——うさぎの女の子の避妊手術、当院の考え方
迷ったら読んでほしい——うさぎの女の子の避妊手術、当院の考え方
こんにちは、院長です。
今日は、飼い主さんからよくいただく質問 「うさぎの女の子は早めに避妊手術をした方が良いのでしょうか?」 にお答えします。
犬や猫では避妊手術が一般的になっていますが、うさぎの場合は事情が大きく異なります。
インターネットや書籍では「病気予防のために早期手術を推奨」と書かれていることも多いのですが、当院では基本的に “うさぎの避妊手術を積極的には勧めていません”。
「えっ、どうして?予防になるんじゃないの?」
そんな声が聞こえてきそうですね。
ここからは、当院が避妊手術を推奨しない理由を、分かりやすく丁寧にご説明していきます。
1. 避妊手術は本当に病気予防になる?
うさぎのメスがかかりやすい病気として、
- 子宮疾患(子宮腺癌、子宮内膜症、子宮水腫など)
- 乳腺の病気
が挙げられます。
確かに、避妊手術を行うことで、これらの病気の発生率を下げる効果があるとされています。
特に子宮の病気は高齢になるほど発生率が高くなるため、海外の情報や獣医学書では「予防的に早期手術を行うべき」という記述も多く見られます。
ただし——ここからが重要です。
2. うさぎの麻酔はとてもハイリスク


うさぎの避妊手術を当院で積極的に勧めない最大の理由。
それは “麻酔のリスクの高さ” にあります。
犬や猫と比べて、うさぎは以下のような特徴を持っています:
- 呼吸が急に弱くなりやすい
- ストレスで体調を大きく崩す
- 心拍や血圧の変動が読みにくい
- 消化器トラブル(うっ滞)を起こしやすい
- 気管挿管が難しい場合がある
これらの要因から、手術中に呼吸や心臓が止まってしまうリスクが、他の動物よりも高いと言われています。
もちろん、麻酔技術や設備の進歩で安全性は向上していますが、それでも「絶対に安全」ということはありません。
未来に起こるかどうか分からない病気を予防するために、
今この瞬間の命を賭けた全身麻酔と開腹手術を行うべきなのか?
当院では、そこに大きな疑問を感じています。
3. オスとメス、どうして扱いが違うの?
飼い主さんからよく聞かれる質問があります。
「オスの去勢は勧めるのに、メスの避妊は勧めないの?」
実はこれにも理由があります。
- オスの去勢手術はメスの避妊手術に比べてはるかに負担が軽い
→ お腹を開けず、短時間で終わる - 麻酔時間も短いため、リスクが低い
- オスメス同居での“予期せぬ妊娠”だけを防ぎたい場合、オスの去勢だけで十分
つまり、避妊が「どうしても必要」な状況であれば、
オスだけ去勢することで安全に目的を達成できるわけです。
4. メスのうさぎはどうしたらいい? “定期検診”という最善策
では、メスのうさぎはそのままで大丈夫なの?
と不安に思われるかもしれません。
当院が最も大切にしているのは “定期的な検診” です。
● 定期検診でできること
- レントゲン検査
- エコー検査(必要に応じて)
- 触診、聴診、生活状況の確認
- ホルモン状態・行動変化のヒアリング
こうした定期的なチェックをしていれば、
子宮疾患や乳腺の異常を早期に見つけることができます。
そしてもし異常が見つかった場合は、
“予防手術”ではなく “必要な治療としての手術” に切り替わります。
これは医学的にも倫理的にも、大きな意味を持ちます。
- 予防手術…発症していない病気に対する手術(麻酔リスクを先に負う)
- 治療手術…すでに病気があるため、手術のメリットが明確
うさぎの麻酔リスクを考えると、
本当に必要なときに、最も安全な方法で手術を行うのが最善だと考えています。
5. 当院が避妊手術を積極的に勧めない理由・まとめ
- うさぎの麻酔は犬猫に比べてハイリスク
- 予防のための手術に“今の命のリスク”をかけるべきか疑問
- オスだけの去勢で妊娠回避は可能
- 定期検診により早期発見・早期治療ができる
- 病気が見つかった時点での手術なら、メリットがリスクを上回る
もちろん、すべての動物病院で方針が同じわけではありません。
麻酔設備、スタッフ体制、外科経験によって見解は大きく変わります。
しかし、当院では「うさぎの命を守る」という視点から、
“むやみに避妊を推奨しない”という方針を取っています。
6. 飼い主さんへ——迷ったときの道しるべ
避妊手術は“する・しない”のどちらが正解という話ではありません。
大切なのは、
- うさぎの性格・体質
- 環境(同居うさぎの有無)
- 飼い主さんが望む生活スタイル
- 病気のリスクと麻酔のリスク
- 動物病院の方針
これらを一緒に考え、その子にとって最適な選択をすることです。
もし迷われている場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
一緒にその子の未来を考えていければと思います。
おわりに
うさぎの医療はまだ発展途上であり、日本では特に「うさぎ専門」の施設が多いわけではありません。だからこそ、飼い主さんが正しい情報を知り、納得したうえで選択することがとても大切です。
「手術しない=放置」ではなく、
“定期検診で守る”という選択も、うさぎにとって立派な愛情の形です。
当院はこれからも、うさぎさんと飼い主さんが安心して暮らせるよう、丁寧な診療を心掛けていきます。
必要であれば、別記事として 「うさぎの定期検診で何をするの?」 や
「避妊手術のメリット・デメリットをさらに詳しく」 も作成できますので、お気軽にお申し付けくださいね。





















