「院長、うさぎの飼い主さんから『あまり食べていないみたいです』と連絡がありました。」
この一言を聞いたとき、私たちはかなり緊張します。
犬や猫であれば「半日くらい食べない」ことは珍しくありませんが、うさぎにとっての食欲不振は、まったく意味が違います。
うさぎは草食動物で、消化管が常に動き続けていることが前提の体のつくりをしています。食べることで胃腸が動き、胃腸が動くことでまた食べられる。この循環が止まると、体は一気に危険な方向へ傾いていきます。
だからこそ、私ははっきり言います。
「うさぎが食べない=すぐ病院へ」です。
うさぎの胃腸は「止まる」と一気に悪化します
うさぎの胃腸は、常に内容物が入っていることを前提に動いています。牧草をかじり続けることで蠕動運動が維持され、ガスが溜まらず、腸内細菌のバランスも保たれています。
ところが、何らかの理由で食べられなくなると、この動きが急速に低下します。すると、腸の中にガスが溜まり始めます。これが鼓腸症です。お腹が張って苦しくなり、ますます食べられなくなる。すると、さらに腸が動かなくなる。完全な悪循環です。
さらに、食べられない状態が続くと、体は脂肪を急激に分解してエネルギーを作ろうとします。その結果、脂肪が肝臓に過剰に蓄積し、**肝リピドーシス(脂肪肝)**を起こします。これはうさぎにとって非常に危険な状態で、命に関わることも少なくありません。
つまり、食べないという「最初の小さな異変」が、短期間で「命の危機」につながってしまうのが、うさぎという動物なのです。
「2〜3日様子を見る」は危険です
「昨日からあまり食べていないみたいです。」
「でも、まだ少しは食べているし、元気もあるから様子を見てもいいですか?」
この質問をよく受けます。ですが、うさぎに関しては2〜3日様子を見るという選択は、とてもリスクが高いと言わざるを得ません。
なぜなら、食べない原因が何であれ、体の中ではすでに悪循環が始まっている可能性があるからです。歯のトラブル、胃腸の異常、痛み、感染症、ストレス、環境変化。原因は様々ですが、放っておいて自然に治るケースは多くありません。
早い段階であれば、点滴や注射、胃腸を動かす薬、痛み止め、そして流動食の給餌で立て直せることがほとんどです。ところが、時間が経つほど治療は難しくなり、回復にも時間がかかります。
食欲不振のときに必要な治療
来院されたうさぎに対しては、まず原因の診断を行います。口の中や歯のチェック、触診、必要に応じてレントゲンや血液検査を行います。
同時に、「原因が分かるまで待つ」のではなく、今この瞬間に体が破綻しないように支える治療を始めます。
具体的には、
- 点滴による脱水の補正
- 胃腸の蠕動を促す薬
- 痛みがあれば鎮痛処置
- 流動食の強制給餌
これらを組み合わせて、胃腸の動きと代謝をなんとか維持します。食べられない状態を「作らない」ことが最優先なのです。
強制給餌と聞くと、かわいそう、ストレスになりそう、と思われるかもしれません。でも、短時間のストレスよりも、食べられないことによる体へのダメージの方がはるかに深刻です。
うさぎは「限界まで我慢する」動物です
うさぎは捕食される側の動物です。弱っている姿を見せることは、本能的に避けます。だから、飼い主さんが「ちょっと元気がないかな」と気づいた時点で、実際にはかなり具合が悪くなっていることが少なくありません。
食欲不振は、うさぎが出す数少ない「助けて」のサインです。それを見逃さないでほしいのです。
まとめ
うさぎの食欲不振は緊急事態。
鼓腸症や肝リピドーシスにつながり、悪循環に陥る。
「様子見」は危険。
早期の診断と、点滴・注射・流動食給餌が必要。
もし、「いつもより食べない」「ペレットだけ残す」「牧草をかじらない」「硬便が減っている」と感じたら、迷わずご連絡ください。
「大したことなかったね」で済めば、それでいいのです。
でも、「もっと早く来ていれば…」とならないために。
それが、うさぎと暮らす上での一番大切な心構えだと思っています。


