「院長、ほとんど休まずに年中病院にいますよね。そんなに続けられるモチベーションはどこから来るんですか?」
たまにこう聞かれます。
確かに、休日も夜間も、何かあれば病院に来る生活をもう何年も続けています。正直に言えば、体力的に楽なわけではありません。それでも続けられているのは、単なる根性論でも、ワーカホリックでもなく、はっきりした理由があります。
それは、飼い主さんの「やる気」と「覚悟」です。
これが、私の心に一番強く火をつけてくれる燃料です。
獣医師という仕事の原動力
もちろん、獣医師である以上、使命感はあります。
苦しんでいる動物を助けたい。痛みを減らしたい。元気にして家に帰してあげたい。これはこの仕事を選んだ時から変わらない根っこの部分です。
でも、正直に言うと、それだけでは長くは続きません。現実の臨床はきれいごとだけではありません。治らない病気、亡くなってしまう命、どうしても限界のある医療、経済的な壁、飼い主さんとの意見の違い。そういったものに日々向き合っていると、どんなに志があっても、心がすり減る瞬間はあります。
そんなときに、もう一度前を向かせてくれるのが、飼い主さんの言葉や姿勢です。
「何とか助けてほしい」という本気
「先生、できることは全部やってください。」
「費用のことは後で考えます。今はこの子を助けたいです。」
「先生を信じています。」
こうした言葉をかけられるたびに、胸の奥が熱くなります。
この人は、この子の命を本気で守ろうとしている。
じゃあ自分は、どこまで本気で応えられているだろうか。
そう自分に問い直させてくれるのが、飼い主さんの覚悟です。
特に動物が入院しているときは、休診日であろうと夜中であろうと、「今できることは何か」「やっておいた方がいいことは何か」を考え続けます。検査の結果をもう一度見直したり、薬の量を微調整したり、体位を変えたり、酸素の設定を見直したり。細かいことの積み重ねですが、それが回復につながることも少なくありません。
それをやろうと思えるのは、「この人は本気でこの子を助けたいと思っている」という確信があるからです。信頼されていると感じられるからです。
獣医療は「一緒にやる」もの
一方で、とても言いにくいことですが、飼い主さんがあまり治療に積極的でない場合、私自身の気持ちもどうしても冷えてしまいます。
「まあ、そこまでしなくてもいいです。」
「とりあえず薬だけください。」
「様子を見ます。」
もちろん、それぞれのご家庭の事情や考え方がありますし、無理に踏み込むつもりはありません。ただ、獣医師は一人で動物を治せるわけではありません。通院、投薬、食事管理、生活環境の調整、観察。これらはすべて飼い主さんの協力があって初めて成り立ちます。
獣医師は、魔法使いではありません。
私たちは、飼い主さんとチームになって、同じ方向を向いて初めて力を発揮できる存在です。
だからこそ、「一緒に頑張りましょう」という空気があると、こちらも自然とエネルギーが湧いてきます。逆に、温度差があると、どうしても治療は表面的なものになってしまいます。
熱量は伝染する
不思議なもので、熱意は伝染します。
飼い主さんが本気なら、獣医師も本気になります。
獣医師が本気なら、スタッフも本気になります。
スタッフが本気なら、動物も不思議と頑張ってくれます。
もちろん科学的な因果関係を証明できる話ではありません。でも、長年臨床をやってきた感覚として、「あの子はみんなに支えられて乗り越えた」という症例は確かにあります。
だから、お願いがあります
もし、あなたが動物病院に来るとき、心のどこかで「先生に丸投げすればいい」と思っていたら、少しだけ考え方を変えてほしいのです。
「この子のために、私にできることは何だろう。」
「先生と一緒に、この子を支えよう。」
そう思っていただけるだけで、診療は大きく変わります。質問をしてくれていいです。不安を言ってくれていいです。迷っているなら迷っていると正直に言ってください。そのすべてが、より良い医療につながります。
最後に
「院長も体に気をつけて、まだまだ頑張ってくださいね。」
そう言われると、素直に嬉しいですし、「もう少し頑張ろうかな」と思ってしまいます。結局のところ、私も人間で、感情で動く部分がたくさんあります。
獣医師の心に火をつけるのは、最新の機械でも、論文でも、評価でもありません。
それは、目の前で動物を想い、必死になっている飼い主さんの姿です。
その火がある限り、私はきっと、この仕事を続けていけるのだと思います。