体調不良をきっかけに来院し、レントゲン検査によってお腹の中に卵が見つかった、2歳のサザナミインコの症例をご紹介します。
この子はこれまで一度も卵を産んだことがなく、今回が初めての産卵でした。しかし、卵は正常に排出されず、いわゆる「卵詰まり」の状態になっていました。
小鳥の卵詰まりは、様子を見ているうちに急激に状態が悪化することがある、非常に注意が必要な病気です。
体調不良で来院したサザナミインコ
飼い主様から「いつもと様子が違い、体調が悪そう」とのご相談があり、来院されました。
小鳥は本能的に体調不良を隠そうとするため、飼い主様が異変に気づいた時点で、すでに病気が進行していることがあります。
特に、
- 元気がない
- 羽を膨らませている
- ケージの下でじっとしている
- 食欲が低下している
- 何度もいきむような動作をする
- 尾羽を上下させながら呼吸している
- 便の回数が減っている
- お腹が膨らんでいる
といった変化が見られる場合には、できるだけ早い受診が必要です。
今回のサザナミインコも、診察だけでは体調不良の原因を確定できなかったため、詳しい状態を確認する目的でレントゲン検査を行いました。
レントゲン検査でお腹の中に卵を確認
レントゲン検査の結果、お腹の中に卵があることが確認されました。
飼い主様によると、この子は過去に一度も産卵したことがなく、今回が初めての卵でした。
初めての産卵であっても、必ずしも問題なく卵を産めるとは限りません。卵の位置や大きさ、卵殻の状態、母鳥の体力、筋肉の収縮、カルシウムの状態など、さまざまな要因によって産卵が難しくなることがあります。
また、鳥は交尾をしていなくても無精卵を産むことがあります。
「オスと一緒に飼っていないから卵は産まない」とは限らないため、女の子の小鳥では、日頃から発情や産卵の可能性を意識して健康管理を行うことが大切です。
まずは注射による治療を開始
検査結果や全身状態を確認したうえで、まずは陣痛を促すための注射などを行い、自力で産卵できるか慎重に経過を観察しました。
卵詰まりの治療では、すべての症例ですぐに摘出処置を行うわけではありません。
母鳥の体力が保たれており、卵の位置や状態から自力での産卵が期待できる場合には、保温や補液、カルシウムの補給、産卵を促すための治療などを行いながら経過を見ることがあります。
一方で、卵が完全に詰まっている場合や、治療を行っても卵が移動しない場合、全身状態が悪化している場合には、早急な摘出処置が必要になります。
小鳥は体が小さいため、長時間にわたって卵を抱えた状態が続くと、急速に体力を消耗してしまいます。
そのため、「もう少し待てば自然に産むかもしれない」と長く様子を見ることが、かえって危険につながることがあります。
数日間の治療でも産卵できず、摘出処置へ
今回のサザナミインコは、注射などによる治療を行いながら数日間慎重に経過を見ましたが、卵は完全に詰まっており、自力での産卵は困難と判断しました。
そのため、飼い主様に現在の状態と処置の必要性、考えられる危険性をご説明し、卵の摘出処置を行いました。
幸い、今回の症例では無事に卵を摘出することができました。
しかし、卵を摘出できればすべてが終わり、というわけではありません。
産卵や卵詰まりは、母鳥の体に非常に大きな負担をかけます。卵によって周囲の臓器が圧迫されていたり、長時間いきみ続けたことで体力を消耗していたりする可能性があります。
また、処置後に食欲が戻るか、便が正常に出るか、呼吸状態に問題がないか、再び卵を作り始めていないかなど、引き続き慎重に確認する必要があります。
卵詰まりは命に関わることがあります
卵詰まりは、小鳥の診療において珍しい病気ではありません。しかし、決して軽く考えてよい状態ではなく、亡くなってしまうこともある緊急性の高い病気です。
卵が詰まると、卵管や総排泄腔だけでなく、消化管や腎臓、神経、血管などにも影響が及ぶ可能性があります。
卵による圧迫や痛み、脱水、低カルシウム状態、体力の消耗などが重なると、短時間で全身状態が悪化することもあります。
特に体の小さな鳥では、数時間の違いが治療結果に影響することがあります。
次のような様子が見られた場合には、翌日まで待たず、できるだけ早く小鳥を診察できる動物病院へご相談ください。
- ケージの床でうずくまっている
- 足を広げるような姿勢をしている
- 何度もいきんでいる
- 呼吸が速い、または苦しそう
- 尾羽を大きく上下させている
- お腹が膨らんでいる
- 急に便が出なくなった
- 食べない、動かない
- 総排泄腔から卵や組織が見えている
ご自宅でお腹を強く押したり、見えている卵を無理に引っ張ったりすると、卵が割れたり、卵管や総排泄腔を傷つけたりする危険があります。自己判断で処置せず、病院へご連絡ください。
卵を産んでからではなく、産む前から発情管理を
小鳥の健康管理では、「卵が詰まった時にどう治療するか」だけでなく、「必要以上に卵を作らせないためにどう管理するか」が非常に重要です。
発情が続くと、産卵を繰り返すようになり、カルシウムや栄養が消耗します。卵詰まりだけでなく、軟卵、卵管の異常、慢性的な体力低下などにつながる可能性もあります。
発情には、日照時間、室温、食事内容、体重、飼い主様との接し方、ケージ内のおもちゃや巣のように感じる場所など、さまざまな要因が関係します。
背中や腰をなでる、暗く狭い場所に入れる、発情対象となるおもちゃや鏡を置く、長時間明るい部屋で過ごさせるといった環境が、発情を促していることもあります。
ただし、単純に食事を減らしたり、急に環境を変えたりすると、かえって体調を崩すことがあります。特に、すでに卵を作っている可能性がある時期に自己判断で強い食事制限を行うことは危険です。
その子の体重や栄養状態、生活環境、発情の程度を確認しながら、無理のない方法で調整する必要があります。
卵を産んだら、次の卵にも注意が必要です
一度卵を産んだからといって、それで終わるとは限りません。
鳥は一定の間隔で複数の卵を産むことがあるため、最初の卵を産んだ後も、次の卵が形成されていないか注意が必要です。
また、卵をすぐに取り除くことで、失った卵を補おうとして、さらに産卵を続けてしまうこともあります。卵を残すべきか、擬卵に交換するべきか、いつ片づけるべきかは、鳥の種類や発情状態によって判断が異なります。
初めて卵を産んだ時点で一度動物病院に相談し、体重、栄養状態、カルシウムの状態、今後の発情管理について確認しておくことをお勧めします。
今回の症例からお伝えしたいこと
今回のサザナミインコは、レントゲン検査で卵の存在を確認し、注射による治療を行いましたが、自力での産卵が困難であったため摘出処置を行いました。
幸い、卵は無事に摘出できましたが、産卵と卵詰まりによる体への負担は大きく、処置後も慎重な経過観察が必要です。
小鳥の産卵は自然な生理現象ではありますが、家庭で飼育されている小鳥にとって、繰り返す発情や産卵が必ずしも安全とは限りません。
「卵を産んでから考える」のではなく、産む前から発情を適切に管理することが大切です。
女の子の小鳥を飼っている方は、今まで一度も卵を産んだことがなくても、日頃から体重や便、食欲、お腹の膨らみ、発情行動などを観察してください。
卵を産んだ場合や、発情が強く続いている場合には、自己判断で様子を見続けず、早めに小鳥を診察できる動物病院へご相談ください。
※本記事は当院で診療した症例をもとに、個人が特定されないよう配慮して掲載しています。病状や治療方法は鳥の種類、全身状態、卵の位置などによって異なります。


