動物病院を受診した際、
「これだけ検査をしたのに、まだ病名が確定しないのですか?」
「血液検査に異常が出たのだから、もう原因は分かったのでは?」
と疑問に思われる飼い主様は少なくありません。
確かに、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などを行えば、体の中で起きている異常を詳しく調べることができます。
しかし、検査で異常を見つけることと、体調不良の原因を一つの病名に確定することは、必ずしも同じではありません。
動物の病気は、一回の検査で答えが出るとは限りません。検査で可能性を絞り、治療を行い、その後の変化を確認し、必要であれば診断を見直す。
この一連の過程すべてが「診断」です。
検査をたくさんすれば、病名は確定する?
検査を行うと、体のどこに、どのような異常があるのかを詳しく調べることができます。
動物病院では、症状に応じて次のような検査を行います。
- 血液検査
- レントゲン検査
- 超音波検査
- 心電図検査
- 血圧測定
- 尿検査
- 便検査
- 皮膚検査
- 細胞診
- 細菌培養検査
- 感染症検査
- 病理組織検査
しかし、検査で分かるのは、必ずしも病名そのものではありません。
例えば、血液検査で肝臓に関係する数値が上昇していたとします。
この場合に分かるのは、「肝臓や胆道系に負担がかかっている可能性がある」ということです。
その原因には、肝炎、胆のう炎、胆管閉塞、腫瘍、中毒、薬の影響、ホルモン疾患、循環不全など、さまざまな可能性があります。
数値が高いという事実だけでは、どの病気が原因なのかまでは確定できません。
レントゲン検査で心臓が大きく見えた場合も同様です。
心臓病の可能性は高まりますが、体格や撮影時の呼吸状態によっても見え方は変わります。心臓の働きや血流まで詳しく調べるには、超音波検査や心電図、血圧測定などが必要になることがあります。
つまり、検査は一つの病名を当てるためだけに行うものではありません。
体の中で起きている異常を整理し、考えられる病気を絞り込み、危険な病気を見落とさないために行うものです。

一つの症状に、たくさんの原因があります
「吐いている」「食べない」「元気がない」という症状だけでも、原因は非常に多くあります。
消化器の病気だけでなく、腎臓病、肝臓病、膵炎、ホルモン疾患、心臓病、感染症、中毒、腫瘍、痛みなどでも、食欲不振や嘔吐は起こります。
咳についても、呼吸器だけの問題とは限りません。
気管支炎、肺炎、気管虚脱、心臓病、腫瘍、異物など、原因によって必要な治療は大きく異なります。
人であれば、
「食後にみぞおちが痛みます」
「立ち上がるとめまいがします」
「昨日から右足だけしびれています」
と症状を詳しく説明できます。
しかし、動物はどこが痛いのか、いつから苦しいのかを言葉で伝えることができません。
そのため、動物医療では、飼い主様から伺う経過、身体検査、各種検査の結果を組み合わせながら、原因を探していく必要があります。
体調不良の原因が一つとは限りません
最初から一つの病気に決めつけられない大きな理由は、複数の病気が同時に起きていることがあるためです。
例えば、高齢の犬が食欲不振で来院した場合、
- 歯周病による口の痛み
- 慢性腎臓病
- 心臓病
- 関節炎
- 胃腸炎
などが同時に存在している可能性があります。
猫でも、糖尿病と膵炎、腎臓病と甲状腺機能亢進症など、複数の病気が重なっていることがあります。
うさぎや小鳥では、感染症、栄養障害、肝臓病、腎臓病などが重なり、急激に体調を崩すこともあります。
一つの異常が見つかったからといって、それがすべての症状を説明できるとは限りません。
最初に見つけた異常だけに注目すると、同時に存在する別の病気を見逃してしまう危険があります。
検査結果に異常があっても、まだ確定ではない?
検査で異常が見つかった場合、まずはその異常から考えられる病気を整理します。
この段階でつけられる診断を、一般に「暫定診断」や「仮診断」と呼ぶことがあります。
例えば、
「症状と血液検査から膵炎の可能性が高い」
「レントゲン検査から肺炎が疑われる」
「尿検査から細菌性膀胱炎が考えられる」
という段階です。
仮診断だからといって、根拠なく病名を想像しているわけではありません。
問診、身体検査、検査結果を基に、現時点で最も可能性が高く、治療の優先順位が高い病気を判断しています。
病気によっては、病理組織検査、細菌培養検査、遺伝子検査などによって、原因をより明確にできることがあります。
一方で、生きている動物では病変部を採取することが難しい場合や、検査自体に麻酔や手術が必要になる場合もあります。
そのため、すべての病気で完全な確定診断が得られるわけではありません。
治療して良くなれば、確定診断になる?
仮診断に基づいて治療を行い、症状や検査数値が改善すれば、その診断を支持する重要な情報になります。
例えば、細菌感染を疑って適切な抗菌薬を使用し、症状や炎症反応が改善すれば、感染症であった可能性は高くなります。
しかし、治療に反応したことだけで、必ず病名が確定するわけではありません。
一つの薬が複数の病気に効果を示すことがあるためです。
ステロイドで症状が改善しても、アレルギー、免疫疾患、炎症性疾患、腫瘍など、いくつもの可能性があります。
吐き気止めで食欲が戻っても、吐き気の原因となった病気まで確定したとは言えません。
したがって、治療反応は診断の重要な材料ですが、それだけを根拠に病名を断定することはできません。
検査結果、症状の経過、治療反応を総合して判断する必要があります。

なぜ最初から必要な検査だけに絞れないの?
検査費用について不安を感じるのは当然です。
「可能性の高い病気だけを調べればよいのでは?」
「最初から検査を絞れば、費用も抑えられるのでは?」
と思われるかもしれません。
実際の診療でも、すべての動物にすべての検査を行うわけではありません。
年齢、症状、病歴、身体検査、緊急性などを基に、必要性の高い検査から選択します。
ただし、最初から検査範囲を狭くしすぎると、別の重大な病気を見逃す危険があります。
特に、
- 急激に体調が悪化している
- 高齢である
- 複数の症状がある
- 原因が分かりにくい
- 命に関わる病気が疑われる
という場合には、ある程度幅広い検査が必要になります。
大切なのは、「検査をたくさんすること」そのものではありません。
考えられる病気の中から、緊急性が高いもの、見逃すと危険なもの、治療方法が大きく変わるものを優先して調べることです。
一度に行う検査と、段階的に行う検査
検査の進め方には、大きく分けて二つあります。
一つは、初回から必要な検査を広く行う方法です。
重症、緊急、高齢、複数の病気が疑われる場合には、この方法が適しています。検査を小分けにしている間に病状が進行する危険があるためです。
もう一つは、優先度の高い検査から段階的に進める方法です。
比較的元気があり、緊急性が低い場合には、まず基本的な検査を行い、その結果に応じて追加検査を検討します。
どちらが正しいということではありません。
動物の状態、疑われる病気、検査による負担、治療への影響、飼い主様のご希望や費用面などを総合して判断します。
ただし、費用を抑えるために必要な検査を後回しにすると、治療が遅れ、結果的に入院期間や治療費が増えてしまうこともあります。
診断は一回の検査で終わりません
診断とは、一回の検査で病名を当てることではありません。
一般的には、次のような流れで進みます。
まず、飼い主様から症状や経過を詳しく伺います。
次に、身体検査を行い、考えられる病気をリストアップします。
その後、必要な検査を行い、可能性の低い病気を除外しながら、疑われる病気を絞り込みます。
仮診断に基づいて治療を始め、症状や検査数値の変化を確認します。
期待した改善がなければ、最初の診断が正しかったか、別の病気が隠れていないかを見直し、追加検査や治療内容の変更を検討します。
つまり、
問診、診察、検査、治療、経過観察、再評価までが、一つの診断過程なのです。
診断が途中で変わるのは、誤診なの?
治療中に診断名が変わると、
「最初の診断は間違っていたのではないか」
と不安になるかもしれません。
しかし、病気の初期には特徴的な症状がそろっておらず、時間の経過とともに新しい異常が現れることがあります。
最初は胃腸炎のように見えていても、数日後にホルモン疾患や腫瘍が明らかになることもあります。
また、治療への反応が予想と異なることによって、別の病気に気づくこともあります。
新しい情報に応じて診断を見直すことは、決めつけを避けるために必要な過程です。
問題なのは、一度つけた診断に固執し、改善していないにもかかわらず、検査や治療を見直さないことです。
確定診断が最後まで分からないこともあります
残念ながら、あらゆる病気で確定診断が得られるわけではありません。
確定のために手術や麻酔が必要でも、動物の状態が悪く実施できないことがあります。
脳や心臓など、簡単には組織を採取できない場所の病気もあります。
小鳥や小型のエキゾチックアニマルでは、採取できる血液量が限られ、検査そのものが大きな負担になることもあります。
その場合には、得られる範囲の検査結果、症状、治療反応を基に、最も可能性の高い病気を想定して治療します。
確定診断がつかないことは、何も分かっていないという意味ではありません。
現時点で得られた情報から、危険性の高い病気を除外し、最善と考えられる治療を選んでいるのです。

飼い主様からの情報も、大切な検査の一つです
動物は症状を言葉で伝えられません。
そのため、飼い主様から伺う情報は、検査結果と同じくらい重要です。
受診時には、できる範囲で次のことをお伝えください。
- いつから症状が始まったか
- 最初に見られた変化は何か
- 食欲や飲水量
- 尿や便の変化
- 嘔吐や咳の回数
- 使用している薬やサプリメント
- 誤食や中毒の可能性
- 過去にかかった病気
- 症状が分かる写真や動画
症状をよく把握している方が来院されることで、必要な検査をより適切に選びやすくなります。
大切なのは「早く決めること」より「正しく見直すこと」
飼い主様としては、できるだけ早く病名を知りたいと思うのが当然です。
しかし、診断を急ぐあまり、一つの病気に決めつけてしまうと、本当に治療すべき病気を見逃すことがあります。
診断とは、病名を一度決めたら終わりではありません。
検査で可能性を絞り、治療を行い、その反応を確認し、必要であればもう一度考え直すことです。
厚木ひまわり動物病院では、最初から一つの病気に決めつけるのではなく、見逃してはいけない病気を考えながら検査を進め、治療後の経過まで確認することを大切にしています。
検査結果や診断について分からないことがありましたら、
「この検査では何が分かりますか?」
「現時点で、どの病気が疑われていますか?」
「確定のためには、次にどのような検査が必要ですか?」
と、遠慮なくお尋ねください。

診断は、一回の検査で病名を当てることではありません。
動物の状態を丁寧に確認し、必要な検査を行い、治療への反応を見ながら慎重に判断を重ねること。
それが、決めつけによる誤診を避け、大切な命を守るために必要な診療です。