”安く済ませたい”が招く大きな損失——重症のペットにこそ必要な、獣医師と飼い主の正しい向き合い方
こんにちは、厚木ひまわり動物病院です。
今回のテーマは、多くの動物病院が直面している、とても大切なお話です。
ある日、こんな質問をいただきました。
「院長、かなり重症と思われる患者さんなんですが、出来るだけ安く治療してほしいとの事です。」
動物医療にお金がかかるのは事実ですし、飼い主さんの事情や生活があるのも当然です。
しかし、「安く」「最低限で」「検査なしで」というご要望には、大きな問題が潜んでいます。
この記事では、動物医療の現場で起きているリアルと、
“結果的に安く済ませるために大切な考え方”をお伝えします。
1. 「安くしてほしい」飼い主さんは確かに多い
「治療費を抑えたい」「検査は最小限に」とお考えの方は珍しくありません。
むしろ現場ではよくあるご相談です。
もちろん、私たち獣医師は費用の不安を理解していますし、
できるだけ負担を軽くする方法も考えます。
しかし——
何でも“最低限で”と言われ続けると、
獣医師も本当に最低限の治療しかできなくなってしまう。
これは決して嫌味ではなく、医療現場で実際に起きることです。
2. 必要な検査を省くと、正しい診断すらできない
動物医療は、
診断(原因を特定すること)が治療の9割 と言われています。
しかし、
「検査はしないでほしい」
「安く済ませたいから、薬だけ欲しい」
と言われてしまうと、獣医師の手足は大きく縛られます。
- 血液検査ができない
- レントゲンが撮れない
- 超音波検査ができない
- 触診だけで判断するしかない
これでは、診断が不完全になるのは当たり前 です。
その結果どうなるか?
- 実は重大な病気なのに“ただの風邪”と判断される
- 薬が合わず症状が悪化する
- 本当は緊急手術が必要なのに見逃す
- 手遅れになってから病院に戻ってくる
こうした悲劇は、
「検査しなかった」
「最低限で済ませた」
その積み重ねで起きています。
せっかく病院に来ていただいたのに、
正しい診断ができない状態では治療のスタートラインにすら立てません。
3. “薬だけ出す”のは獣医師の本望ではない
最低限の治療しかできない状態では、
獣医師ができることは非常に限られます。
- 「とりあえず抗生剤を…」
- 「痛み止めで様子見しか…」
- 「数日経過を見てください」
これでは、薬局で薬を買っているのとほとんど同じ になってしまいます。
本来はもっと深く原因を探り、
根本治療を目指したいのに、
飼い主さんのご希望によってそれができない——
これは獣医師にとって非常に辛いことです。
4. “費用を気にしすぎる”方が、結果的に高くつく
飼い主さんからよく聞く言葉があります。
「検査しない方がお金がかからないと思って…」
しかし、この考え方は大きな誤解です。
● 最低限の治療で病気が長引く
→ 再診・薬の追加・通院が増え、結果的に費用がかさむ。
● 病気を見逃し、手遅れになる
→ 緊急手術・入院・集中治療など、莫大な医療費が必要になる。
● 正しい診断が遅れ、助かる可能性が下がる
→ “お金よりも大切なもの”を失う結果になる。
適切な検査を受けることは、
結果的にお金もペットの命も守る最善策 なのです。
5. 獣医師のやる気は“飼い主さんの本気”に比例する
これは院長として、そして一人の人間としての本音です。
飼い主さんの「何とか助けたい!」という強い想いは、
獣医師を本気で動かす力になります。
もちろん、診療は常に全力です。
しかし、飼い主さんが治療に前向きであればあるほど、
獣医師はより深く、より丁寧に、より創造的に治療を考えます。
- 細かな検査データを比較し
- 最適な治療を模索し
- 病気の背景まで読み取り
- ペットの未来まで考えた提案ができる
これは、
飼い主さんの熱意と信頼があってこそ生まれる医療 です。
「院長見てると分かります!」
と言っていただけたこと、本当に励みになります。
6. 獣医師にある程度任せた方が、結局は“安く・早く”治る
もちろん、
「無制限にお金をかけてください」なんて言いません。
しかし、
- 検査は必要最低限より“必要な分だけ”
- 治療方針は獣医師にある程度任せる
- 疑問は遠慮なく相談する
- できる範囲の治療を一緒に考える
こうした姿勢で臨んでいただくと、
結果的に早く治り、費用も抑えられる ことがほとんどです。
獣医師が診断と治療に集中できると、
無駄な通院や薬の追加が減り、
ペットの負担も軽減されます。
7. 最後に——“お金の問題”は恥ずかしくない。だからこそ正直に相談を
治療費に不安があることは、全く恥ずかしいことではありません。
病院に来る多くの飼い主さんが、同じ悩みを抱えています。
重要なのは、
「安くしてほしい」と一方的に制限するのではなく、
「このくらいの予算で治せる方法はありますか?」と相談すること。
そうすれば、獣医師はその範囲で最大限の努力をします。
ペットの命を守るために、
飼い主さんと獣医師が“パートナー”として向き合うこと。
それが何より大切です。
◎ まとめ
- 「最低限だけ」の治療では診断が不十分になる
- 必要な検査を省くと、誤診・悪化・手遅れのリスクが高い
- 結果的に費用が増えることも多い
- 獣医師のやる気は、飼い主さんの本気に比例する
- 任せるべき部分は任せた方が、早く治り、総額も抑えられる
- 費用の相談は遠慮なく。獣医師は味方です。
ペットが重症のときこそ、
飼い主さんと獣医師が信頼し合い、
一緒に最善の治療を目指すことが必要です。
「費用が心配」「検査の必要性を知りたい」など、
どんなことでも構いません。
ぜひ気軽にご相談ください。
大切な家族の命を守るため、私たちは全力で支えます。





















